歴史
原産地と中国への伝来
ほうれん草は、西南アジア、コーカサス地方やイラン地方が原産地とされています。
「ほうれん草」を漢字で書くと「菠薐草」となりますが、「菠薐」とは中国語で、ペルシャ(今のイラン)を指します。
ペルシャからシルクロード経由で伝わってきた葉菜の事を、ペルシャの草、すなわち菠薐草と呼んだのです。
ちなみに、中国にはヨーロッパに伝わるよりも早くにほうれん草が伝わり、唐の時代には伝えられていたとする説があります。
ヨーロッパとアメリカへ
ヨーロッパへは、イスラム教徒によってほうれん草が伝えられましたが、その後スペインには11世紀までに、イギリスには14世紀に、フランスには16世紀に伝わり、やがてヨーロッパ全域に知られる事になりました。
アメリカに渡ったのは1806年以降と、意外と近年の事ですが、それでも重要な野菜の地位を占める事になりました。
特に、20世紀のはじめに、缶詰加工が盛んにおこなわれるようになると、ほうれん草の栄養価の高さが認知されていき、栽培は大規模化されました。
ほうれん草の缶詰を握ったポパイのマンガは、その象徴ともいえます。
日本とほうれん草
先ほどもお話ししたように、中国には唐の時代には伝わっていたとされる説もあるほうれん草ですが、そこから日本に伝わるのはかなり後となります。
日本には16世紀になってから伝えられたとされ、17世紀末に世に出された「農業全書(宮崎安貞)」には、ほうれん草が登場しています。
しかし、この頃日本に伝えられていたほうれん草は、いわゆる東洋種であり、今の日本で主流となっている西洋種が伝わるのは、文久年間(1861~1863)を待ちます。
しかも、西洋種は日本人の口に合わず、一般にはなかなか広まりませんでした。
ところが戦後、20世紀はじめにアメリカで、栄養価の高さが認められたのと同様に、日本でも栄養価の高さが認められ、今では食卓に欠かせない野菜となりました。
コラム―東洋種と西洋種
現代の日本においてみられるほうれん草は、その多くが西洋種で、東洋種はかなり貴重な存在となっています。
現在日本で栽培されている東洋種には「山形赤根ほうれん草」などがありますが、東洋種と西洋種、どちらも食べた事がある人の話では、東洋種の方が美味、という人もいます。
確かに、日本において当初、なかなか西洋種のほうれん草が広まらなかった事の一因に、その土臭さというものがあります。
これはあくまで私個人の考えですが、西洋種のほうれん草しか食べた事がない私には、西洋種のほうれん草は美味しく感じますが、もし東洋種のほうれん草を食べる事が出来る日が来たら、今まで好んで食べていた西洋種を食べられなくなってしまうのかなと、少し気がかりです。
良品の選び方
・葉先までピンとしているもの
・緑色が濃く鮮やかなもの
・黄色く変色していないもの
・茎がしっかりしているもの
・根のピンク色が濃いもの
これらの特徴があるものを選ぶと、良品に出会える可能性が高くなります。
保存の仕方
冷蔵の場合
乾燥を防ぐために、濡らしたペーパータオルか新聞紙で包み、冷蔵庫の冷蔵室に立てて保存して下さい。
ほうれん草は冬が旬なので、湿度・温度が高めの野菜室ではなく、冷蔵室の方が、良いです。
なお、立てるにはカットした牛乳パックやペットボトルを使うと立てやすいです(カット時や切り口でケガをしないように注意して下さい)。
この方法で、1週間ほど保つ事もあります。
冷凍の場合
生のものを冷凍する場合、よく洗い、水気をしっかりと取り、好みの大きさにカットして、冷凍用保存袋に入れて保存して下さい。
茹でたものを保存する場合は、小分けにしたものをラップで包み保存するか、密閉容器に入れて保存して下さい。生の場合も茹でたものの場合も、この方法で1ヶ月ほど保つ事があります。
栄養素
β-カロテン
ほうれん草には、β-カロテンが豊富に含まれています。
β-カロテンは、体内で必要に応じてビタミンAに変換されます。
ビタミンAは、夜間の視力の維持に、必要不可欠です。
さらに、皮膚や粘膜の健康維持にも重要な役割を果たします。
そして、活性酸素を除去し、がんを防いだり、老化防止につながる事もあります。
葉酸
葉酸は、ビタミンB群の一つに数えられるビタミンです。赤血球の合成に関わります。
また、細胞分裂を助けるため、妊娠中の方や、成長期の子どもに欠かせません。
ビタミンC
ビタミンCといえば、レモンなどの柑橘類を思い出す方もいると思いますが、ほうれん草にも含まれています。
また、夏に採られるものよりも、旬である冬に採られたものの方に、約3倍含まれています。
ビタミンCには、美肌効果があります。また、風邪をひきにくくする可能性があります。
鉄
「ほうれん草の優秀な部分といえば鉄が多い事だ!」とイメージする方も多いと思います。
実際、ほうれん草は鉄の摂取源になります。
鉄が不足すると貧血を起こす可能性があり、そうなると全身に上手く酸素が行き渡らなくなり、めまいや頭痛などを引き起こしてしまう可能性があります。
ほうれん草を食べる事で、その様な事態を防げる可能性があります。
マグネシウム
丈夫な骨や歯をつくるのに欠かせないミネラルです。
また、適量のマグネシウムを摂る事で、けいれんやこむら返りを防げる可能性があります。
カリウム
現代の日本の食生活では、ナトリウムを摂り過ぎてしまう事が往々にして起こりますが、カリウムを摂ると、体内の余分なナトリウムを体外に排出してくれます。
また、カリウムを摂る事で、不整脈やけいれんを防げる可能性が生まれます。
カルシウム
おなじみ骨の材料です。ほうれん草はカルシウムの摂取源にもなってくれます。
骨だけでなく、心臓や筋肉、神経の正常な働きを維持するのにもかかわります。
※ここで紹介した栄養素以外に、ほうれん草は、ミネラルの一つである「マンガン」の摂取源にもなります。
マンガンはとくに、根元の部分に多く含まれていますが、根元の部分の食レポをこの記事で紹介しているので、この後も記事を読み進めて下さると嬉しいです。
※ほうれん草には、シュウ酸というアク成分が含まれ、摂り過ぎると鉄やカルシウムの吸収を阻害しますが、通常、それを心配するほどのシュウ酸は摂取する事が少ないので、過剰に心配する必要はありません。
1分ほど茹で、3分ほど水にさらすというような、日常的なほうれん草の下処理をすれば、基本的には問題ありません。
健康に良い食べ合わせ
※ここで紹介する以外にも、健康に良い食べ合わせはあります。
ピーマン
白内障・緑内障予防などに力を発揮します。
なす
がん予防に役立つ可能性があります。
また、血行促進にも有効です。
かき(貝の)
貧血予防、認知症予防に力を発揮します。
しいたけ
血中コレステロール値低下に役立ちます。
また、高血圧や心臓病予防にも有効です。
品種紹介と私の想い
「山形赤根ほうれん草」
山形県の在来種で、現在は貴重な東洋種の一つです。
赤く色づいた根はとても甘く、メロンやぶどう並の糖度があります。
私はこの品種を実際に食した事はありませんが、メロンやぶどう並の糖度があるという事で、とても興味があります。
味によっては、野菜でありながら、スイーツの様な役割を果たせるかもしれませんね。
ほうれん草の根元の食レポ
ほうれん草の根元、ピンクに色づいているあの部分です。
ついつい捨ててしまう根元ですが、骨の成長促進や代謝のサポートに重要な役割を果たす、マンガンが豊富に含まれています。
とはいっても、見た目は何となく食べにくそうな印象を受ける方もいると思います。かくいう私も、そういう印象があります。
しかし、少なくとも毒ではない事はわかっていたので、ある時、根元を食べてみました(もちろん加熱した上で)。
それを何度か試みたのですが、私に言わせると、ほうれん草の根元は「美味しいものと不味いもので、当たり外れが大きい」です。
美味しいものは、葉を食べた時に感じる苦みが少ない上、濃厚な旨味らしきものさえ感じます。
しかし、不味いものは、味があまりない上に、噛み切れません。
私が考えるに、マンガンの摂取という恩恵を受けたいのであれば、多少面倒でも、根元を細かく切って食べた方が、良いかもしれません。
レシピ
ここで、私が以前、ほうれん草を使って作った料理の紹介です。
ほうれん草をメインに使ったわけではありませんが、その存在は十分に示す事が出来ている料理です。
このブログの別記事にてそれを紹介しているので、以下のリンクよりお読みくださると嬉しいです。
参考文献
・板木利隆監修 株式会社高橋書店発行「からだにおいしい 野菜の便利帳」2021年11月15日発行 108~109頁
・白鳥早奈英、板木利隆監修 株式会社高橋書店発行「もっとからだにおいしい 野菜の便利帳」2020年7月10日 99頁
・名取貴光監修 株式会社高橋書店発行「新・野菜の便利帳 健康編」2021年8月30日 20~21頁
・青髪のテツ著、ムラセセラマンガ 株式会社Gakken発行「マンガでわかる やさいのトリセツ 野菜のプロが教える選び方・保存法・無駄なくおいしく食べるコツ(初版)」2023年7月11日 213頁
・川端理香監修 株式会社宝島社発行「毎日使える! 野菜の教科書(初版)」2017年6月2日 74~75頁
・足立香代子監修、kirishima、サイドランチマンガ 株式会社池田書店発行「マンガでわかる栄養学」2021年12月20日 96~103、106~109、112、115頁
・相馬暁著 株式会社三一書房発行「新装版 野菜学入門(初版)」2006年3月10日 189~194頁
・青葉高著 株式会社八坂書房発行「日本の野菜史文化史事典(初版)」2013年9月25日